アジア民衆史研究会 2019年度第1回大会
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報告
宮本司(明治大学)「竹内好の「翻訳」論について――『中国文学』誌上における「翻訳」論争の検討を中心として」
本報告では、「大東亜戦争と吾等の決意」(1942 年)、『魯迅』(1944 年)、「近代の超克」(1959 年)、「アジア主義の展望」(1963 年)などで知られる中国文学者、竹内好(1910-1977年)の「翻訳」論につき検討を加える。具体的には、『中国文学』誌上にて、1941 年に展 開された吉川幸次郎(1904-1980年)との「翻訳」にまつわる論争を考察対象とし、その論争がたどった道筋や論点を、当時の状況に即しつつ時系列的に整理する。また、従来あ まり顧みられなかった個々の「訳文」をも含めた具体的な事象の検証から、竹内好の「翻訳」論の全体像の帰納を試みる。そして最後に、その「翻訳」論と彼の戦後の諸言説や「中国」観との間にある関係性についても論じようと思う。
宮崎智武(明治大学)「創氏改名の政策構想とその「挫折」」
本報告は、1940 年に植民地朝鮮で行われ朝鮮人に多大な苦痛を与えた創氏改名政策の政策構想を再検討し、そこで浮かび上がった政策構想は、朝鮮人を届出に向かわせていく中で「挫折」させられていたのではないかとするものである。
従来80%という高い届出結果を得たことは、総督府権力の強大さを示すものであり、総督府にとっては「成功」と評価されてきた。しかし予算文書や議会への説明文書を検討していくと、そもそもそのような多い届出を求めることが狙いであったのではなく、むしろ非体制協力的な者の届出は抑制し、朝鮮人を分断しようとしていた政策であったことが浮かび上がってくる。そしてこの構想は、初期には朝鮮人の不届、末期には逆に届出を行う朝鮮民衆によって「挫折」させられていったのである。
李豊海(朝鮮大学校)「在日朝鮮人労働組合の「大同団結」の課題と中央組織化――在日朝鮮人労働総同盟の創立までを中心に」
本報告の課題は、1920年代に入り都市部を中心として各地方に結成された在日朝鮮人の労働組合が、1925年の在日本朝鮮労働総同盟の創立により中央組織化されるまで掲げていた、「大同団結」という課題の中身を検討し、在日朝鮮人労働組合の中央組織化という動きの歴史的意味について考察することにある。
日本の朝鮮支配によって形成された在日朝鮮人は、労働現場や生活空間において民族差別という暴力にさらされるなか、民族独自に労働組合を結成させていったが、その組合を統一し中央組織化するところの意味は、単なる就労条件の改善を目指す団体ではなく、民族団体として団結することにあったと考える。それゆえ、闘争対象となる搾取者は同じであっても、民族団体の性格をめぐって協力や対立を孕みながら在日本朝鮮労働総同盟が創立されたのであり、今回はそのせめぎ合いの過程について報告したい。
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