アジア民衆史研究会 2016年度第2回研究会を、以下の要領で行います。ぜひご参加ください。
「身分」と「門中」から問う琉球・沖縄社会
東アジアの近世・近代を島嶼社会琉球から考える
報告
山田浩世(沖縄国際大)「近世琉球社会の中の身分移動──庖丁人・医師・細工人などを中心として」
玉城毅(奈良県立大)「階層文化としての親族──琉球・沖縄史における地方役人層と一般の百姓」
コメント
松沢裕作(慶應義塾大)
長津一史(東洋大)
日時・会場
2016年12月17日(土)14時開始
早稲田大学 戸山キャンパス 34号館 151教室
事前のお申し込みの必要はありません。
お問い合わせ
アジア民衆史研究会事務局
popular.history.in.asia@gmail.com
趣旨文
これまで、アジア民衆史研究会は、運動史に主軸を置いた民衆史叙述を再考する形で民衆の様々な営みを歴史叙述としてどのように結実していくかを模索してきたが、2015年に論集を刊行し、一定の成果を提示することができた。こうした民衆史叙述の模索と軌を一にする形で、日本史の分野では、一国史を相対化する試みとして、中国史や朝鮮史との対話を通して東アジア近世論や近世近代移行期といった議論を通して歴史像を豊かにしてきた。ただし、改めて議論の射程を考えてみると、「小農自立」のように島嶼社会に適応できるのかどうか十分議論を深めたとはいえない状況もある。また、使用する用語についても、各地域社会に類似性は見られるが、その前提とする条件を再検討する必要も出てくるなど、理解を深めるための用語についても問題とする点が明らかになってきた。
今回の研究会は、かかる問題点を踏まえ、琉球に注目し、島津出兵後に琉球でも身分制と石高制に代表される「近世的編成」が行われたと説明されてきたが、島嶼社会である琉球では、はたしてこのような「近世的編成」がどのように展開してきたのか、また、それが近代社会の遺産として人々の生き方をどのように規定してきたのか。こうした点の理解を深める必要があると考えて企画した。
ここで簡単に琉球史研究の流れを振り返ると、1980年以降、高良倉吉・田名真之・豊見山和行・真栄平房昭ら先行世代によって切り開かれてきた「新しい琉球史像」も、その次の世代からの新たな試みもなされ、セカンドステージが模索されるようになった(民衆史からの先行世代の成果へのアプローチとしては、『民衆史研究』83号・84号がある)。もっとも、先行世代から第2世代に引き継がれている姿勢と言えば、日本史の枠で沖縄社会を測るのではなく、沖縄の実地を踏まえて、自前で沖縄を理解する概念を鍛え上げていこうとする姿勢といえよう。また、歴史学以外でも、文化の政治的影響(動態的文化把握)を意識した人類学(民俗学)の実践も現れており、「琉球・沖縄社会像」の描き方をめぐる活発な議論というものが起きている。「多様な民衆像をどう描くのか」を考えているアジア民衆史研究会において、沖縄で起きている、こうした真摯な試みに目を向け、アジア民衆史と名乗る、その「アジア認識」を再考し、東アジア社会の民衆の生き方を深めるための議論を、共にしていきたいと考えた。
特に、今回の研究会は、琉球王国の主体(主権)をめぐる研究や、「琉球処分」再考の動きが活発化し、国家としての琉球史像が高まる中で、遠景化された感のある琉球社会(身分制社会)の内実の問題に目を向けることにした。また、琉球社会内部に目を向けることで、その多様な権力交差の状態を確認し、なおかつ、静態的な理解にならない長期的な変貌を見極める必要があると考えた。今回の研究会は、かかる視点から議論をする場としても位置付けている。
そのため、本研究会では、山田浩世氏(沖縄国際大学)、玉城毅氏(奈良県立大学)をお呼びして研究会を開催することにした。山田氏には、従来の琉球身分論に抜け落ちてきた視点を絡め医師、庖丁人、細工人といった人々と身分移動が織りなす事例を通じて、どのような特徴を持つ近世社会が形成されていのかを報告してもらう。玉城氏は、士だけでなく地方役人層や一般百姓にも注目し、「家」や「門中」(父系の同一祖先を共有する血族集団)などが、政治権力を媒介にし、歴史的に形成されていく過程を分析していく。
山田報告は近世身分制の周辺部分に注目し、その「流動性」が体制維持に有していた歴史的意味付けについて考える。玉城報告は、不安定であった琉球の士身分が「家」の維持と永続を求めておこなった営為を人類学の手法から検討し、同様な動きが村の百姓層にもみられたことを提起する。 このように、近世近代移行期の支配の重層性とそこに生きる民衆に注目し、生存基盤が流動的な島嶼社会の「生存戦略」(玉城氏の用語だと、家計戦術)などを議論することで、「差別辛吟」か、それとも「逞しく生きている」という二分論的に民衆像を分けるのではなく、二つの像を往還しながら、島嶼社会に生きる民衆の構造的主体性(関係的主体性)を明らかにしたいと考えている。
琉球史の現状と課題を共有し、知的対話を通して、東アジア社会の歴史展開を考えていく課題の発見を目指していきたい。それだけでなく、今回は、歴史学と人類学(民俗学)の対話を通して、お互いの方法論を確認し、認識を深める場所にしていきたい。
以上
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